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2015年10月22日 更新 | 2,970 views

私の吃音(どもり)のせいで他人が死にかけた話-吃音者のリスクマネジメント

物騒な話ではありません。吃音者に向けたリスクマネジメントの話です。人生で数回しかないであろう重要な場面で後悔しないために。

物騒なタイトルを書いてしまいましたが、吃音(どもり)をバカにされて激情し相手に刃物を向けました、という話ではありません。そういったものを期待されている方は他所へどうぞ...。

この記事は吃音者に向けたリスクマネジメントのお話です。

でも、もしかしたら本当に私のせいで人が死んでいたかもしれません。

吃音(どもり)とは

吃音(どもり)とは話すときに、言葉の最初の音を引き延ばす(「どーーーもり」)、くりかえす(「ど、ど、どもり」)、詰まる(「…っ…っどもり」)といった症状がでる病気です。100人に1人が吃音症であると考えられています。

よく緊張やあがり症と勘違いされるのですが、吃音(どもり)は日常生活でもその症状が現れます。

吃音(どもり)の私が他人を殺しそうになった話

私は難発性の吃音症を持っています。喋ろうとしても言葉が詰まってしまい出ないことがあります。とくに電話が苦手です。

これは私が高校生のとき、テスト期間中で昼過ぎに下校したときの話です。

このときは昼過ぎにもかかわらず、私の家の周囲は静かで、人が誰もいませんでした。あともう少しで家に着く、といったときでしょうか。

目の前の十字路で交通事故が起きました。これまでの人生で初めて聴くような、ゴンッ!メキョ!という不気味な音がしました。

バイクとトラックの交通事故。バイクの右側面にトラックが突っ込んだかたちです。バイクの運転手はトラックと反対側に放り投げ出され倒れていました。ピクリとも動きません。トラックを運転していたオジサンは慌てて運転席から出てきて、バイクの運転手を確認した後、

おい! きみ! 救急車を呼んでくれないか!?

と大きな声で言いました。

このとき私は、既に携帯電話を取り出して119番をする準備をしていました。正確にはオジサンに119番してもらおうと携帯電話を取り出して準備していました。

でもオジサンは、バイクの運転手に必死です。周りに私以外だれもいません。事故現場から少し離れた場所に、私がいるだけです。

私が、電話で、119番をする。

このときばかりは「ちゃんと喋れるか」と考える暇なく、すぐに119番を押しました。

...

119「火事ですか? 救急ですか?」

私「......っ...」

...

救急の「き」が出てきません。どもって「き」が出てこないのです。

その後もう1度訊かれて、やっと答えられました。もしイタズラ電話だと思われて切られたらどうしようかと思いました。事故の状況を説明するときも、どもりまくり、たぶん普通の人の倍以上の時間がかかりました。

バイクの運転手はまだ動きません。トラックの運転手のオジサンが必死に喋りかけています。

そして、事故現場の場所を救急の人に伝えることになりました。私の家の近所ですので、住所もわかります。消防署からの道順も正確にわかります。

でも、出ないんです。声が出ない。何一つ出ない。

出ない、出ない、出ない、出ない。

「早くしないとバイクの運転手さんの命が危ないかもしれない」と焦る一方で、声は出ません。

...

119「どうしたんですか!? 場所がわからないんですか!?」

私「......っか......っ.....」

119「もしもし!?」

...

このとき、トラックの運転手に駆け寄る人の姿が見えました。その人は携帯電話で誰かに話しているように見えました。あぁ、別の人が119番をしてくれたんだ、と思い、私は救急の人にそれを伝えようとしました。

...

119「もしもし!?」

私「......っべっのひとが、したっので、もう、だいじょうぶ、で、す」

119「いいからあなたも言ってください!!!!」

...

怖くなりました。住所を言わなければならない、この状況から逃げられない、そう思うと怖くなりました。電話の向こうから救急の人に問い詰められているような気分でした。

私は思わず通話を切ってしまいました。さらに携帯電話の電源を切って、その場から走って逃げてしまいました。

私は何も悪いことはしていません。交通事故を目の前で見て、通報するときに吃っただけです。でも、怖くなって逃げました。家の前を通り過ぎ、なるべく遠くへ走りました。

後ろの方から、救急車のサイレンの音が聴こえました。

...

しばらくして家に帰ろうとすると、警察の人たちが現場検証をしていました。トラックを運転していたオジサンもいました。私はオジサンにバレないように、顔を下に向けながら家に帰りました。

後日わかったことですが、バイクの運転手に命の別状はなく重傷で済んだそうです。でも、もしあのとき通報してくれた人がいなかったら、もしあのとき私が住所を言うのにかなりの時間がかかって救急車の到着が遅れていたら...。

もしかしたら私のせいで死んでいたかもしれない、と自分を責める日がしばらく続きました。

10年以上前の出来事ですが、今でも鮮明に覚えています。あのときは119番通報すらできない、無力で情けない自分が嫌になりました。

自治体のWEB通報システムを活用しましょう

私が住んでいる川崎市には、WEBから119番に通報できる仕組みがあります。ただし、事前に申請・登録する必要があるので、とっさのときに使えません。また、川崎市で登録しても川崎市から出てしまうと使えません。

川崎Web119のご案内

それでも、吃音症を持っていて通報できるか不安な人は、自治体のWEB通報システムに登録しておくのはいかがでしょうか。

私はWeb119に登録する前に、家の中で母親が急に倒れ痙攣したことがありました。そのときは運良くスムーズに119ができたので大事には至りませんでしたが、もしこのときも吃音がヒドく、かつWeb119に登録していなかったらと思うと、怖くて仕方がありません。

備えあれば憂いなし。119番をすることは人生であまりないと思いますが、だからこそしっかりと準備しておきましょう。しなくていい後悔は、なるべくしないようにリスクマネジメントしましょう。

もちろん、119番をする機会に遭遇しないことが一番シアワセなんですけどね。

国際吃音啓発の日によせて

毎年10月22日は『国際吃音啓発の日』です。国際吃音啓発デーとは、国際吃音者連盟・国際流暢性学会が1988年に制定した、吃音(どもり)についての理解啓発を求める日です。

吃音の社会的認知度は高いとは言えません。しかし大人の100人に1人は吃音症で、思春期の子どもにはもっと多いと言われています。

思春期は人格形成における大切な時期です。吃音(どもり)はそこに暗い影を落とします。吃音に悩み苦しんで、自分は他人より劣っている、自分はダメな人間であると思ってしまうのです。

でも、そんなことはないんです。吃音(どもり)があるから全てダメなはずがありません。これは本人ではなく、周りにいる大人たちが伝えるべきです。

しかし、私が吃音で悩んでいた頃は、私の両親や学校の先生は誰も吃音のことを知りませんでした。私に吃音のことを教えてくれたのは、塾の先生でした。

なので私は、吃音の社会的認知度、特に学校の先生や親御さんなど子どもに関わる人たちの認知度を高めようとしています。

と言っても、吃音者の気持ちや悩み、苦しみを理解してほしいとは思っていません。これは吃音者どうしでも理解が難しいことです。

まずは吃音という病気があること、吃音で悩んでいる人がいること、身近に理解者がほしいことを、知ってほしい。 普通に話せることは、多くの人にとっては当たり前かもしれませんが、中にはそれが難しい人がいるんです。

そういった人たちにもやさしい学校や社会になることを、私は願っています。

吃音をもっと理解するには?

ネットで

コンテンツで

学校の先生や親御さんへ

※本記事のライターは言友会をはじめ一切のセルフヘルプグループや研究会に所属しておらず、医学的な知識もありません。小さい頃から悩み苦しんできた1人の吃音者としての立場から執筆しています。

written by ヤス

※ 記事の内容は、医学的な正確性、効能、効果を保証するものでなく、かつ、記事の利用においてはしかるべき資格を有する医師や薬剤師等に個別に相談するなど読者の責任において行ってください。

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